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(理科コラム2)滑らないのは「摩擦」が大きいから。ってどういうこと?

2022.01.31

今年(2022年)の2月、北京冬季五輪がはじまります。冬のスポーツといえば、スキーやスノーボード、スケートを思い浮かべる人も多いでしょう。これら冬のスポーツはみなさんにとって身近なある現象と深く関係があります。その現象とは「摩擦」です。摩擦とは、触れ合った物体に力を加えた時、力と逆向きに起きる現象のことです。たとえば、短いズボンなどをはいたまますべり台で滑った時、皮膚がすれて熱くなったりかゆくなったりするのも摩擦が働いているとイメージすると分かりやすいかもしれません。

そして、物体が動こうとする向きと反対方向に働く力のことを「摩擦力」といいます。スキーやスノーボードで言えば、これらの動きを邪魔する力のことです。板の接地面が氷雪上では摩擦力があまり働かず、ざらざらした面では摩擦力が強く働くとイメージするとわかりやすいでしょう。摩擦力は、物体の重さと面の種類・状態によって決まります。


摩擦力の公式

摩擦力は「摩擦力(F)=摩擦係数(μ)×垂直抗力(N)」という公式で計算できます(高校の物理学で学びます)。「摩擦係数」とは、スキーやスノーボードの板と氷雪上の接触面がどれだけ摩擦力に影響を及ぼすかを示した値で、触れ合う面の種類と状態によって決まります。摩擦係数が小さいほど滑りやすくなります。一般に氷と氷の摩擦係数は0.3〜0.5と言われており、スキーやスノーボードの板と氷雪の摩擦係数は0.08と言われています。「垂直抗力」とは、板が雪面に接している時、板が雪面から垂直に受ける力のことですこの公式から、摩擦係数が小さければ小さいほど、摩擦力が小さくなるのが分かります。



ところで、みなさんは冷凍庫から氷を取り出した時はしっかりつかめた氷も、ほんの少し溶け出すとすぐに手のひらから滑り落ちてしまう経験はあると思います。その原因は、人の手と氷の間で熱によって氷が溶け出し、水となって膜のようにできたため(「水膜」と言います)、少しずつ摩擦係数が下がっているからです。スキーやスノーボードの場合、雪や氷は上からの圧力を加える(人が板の上に乗る)と溶けて水となり、動き出すと摩擦熱が生じてさらに溶けて水が発生し滑りやすくなっています。

このように、摩擦熱などによって水膜ができることで滑りやすくなりますが、水が板のソール(滑走面)に引っ付くと抵抗となって滑りにくくなります。そこでスキーヤーやスノーボーダーは色々な形状の溝(ストラクチャー)を入れたり、ワックスをかけたりして摩擦係数を下げて滑りやすくするのです。

冬のスポーツには摩擦が深く関係しています。これからはじまる北京冬季五輪で、少しでも速く、高く滑るため、どのように選手たちが摩擦と戦い工夫をしているかを想像しながら見ると、また違った楽しみで観戦できるのではないでしょうか。

《キーワード》「摩擦力」
ものを引っ張った時、動き出すまでは大変ですが、一度動き始めると比較的弱い力で動かせるというのは経験したことがあるでしょう。これは静止している物体が動き出す瞬間に働く「最大静止摩擦力」が、動き出す時に生じる「動摩擦力」よりも値が小さく、動摩擦力が一定の値をとるためなのです。

(文/日本サーモスタット株式会社 下田大助

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